児童発達支援や放課後等デイサービスを運営していると、管理者や代表にさまざまな判断が集まることがあります。
職員の配置、活動の進め方、保護者への対応、職員からの相談、会議の進行、日々のトラブルへの対応など。
一つひとつは必要な仕事ですが、すべてを一人で判断し続けることには限界があります。
では、管理者が仕事を職員へ任せれば、それだけで組織はうまく回るようになるのでしょうか。
私は、そう簡単なことではないと考えています。
大切なのは、仕事を渡すことだけではなく、その仕事を自分で考え、判断し、実行できるようになるまで支えることです。
今回は、児童発達支援・放課後等デイサービスの組織づくりを考えるうえで、大切にしたい権限移譲の視点を整理します。
ゆうた先生「任せる」ときは、どこまで自分で判断してよいか、どんなときに相談するかを一緒に決めておきたいですね。最初は一緒に進めながら、少しずつ任せる範囲を広げていくことが大切だと考えています。
1.なぜ管理者に仕事が集まってしまうのか
管理者が経験豊富であれば、問題が起きたときに自分で判断した方が早いと感じることがあります。
また、職員も「管理者に聞けば判断してもらえる」と考えるようになるかもしれません。
こうした状態が続くと、日々の小さな判断まで管理者へ集まるようになります。
その結果、管理者は忙しくなり、職員は自分で考えて判断する経験を積みにくくなる可能性があります。
もちろん、経験が浅い職員に無理に判断を任せることが適切とは限りません。
重要なのは、職員の経験や理解の程度を踏まえながら、どのような仕事なら任せられるかを考えることです。
2.まずは管理者の仕事を見えるようにする
権限移譲を考えるとき、私は仕事を整理することが必要だと考えています。
そもそも、管理者がどのような仕事をしているのかが分からなければ、何を任せればよいか判断できません。
例えば、事業所には次のような仕事があります。
- 日々の職員配置や活動の調整
- 職員間の情報共有
- ケース会議の準備や進行
- 新人職員の育成
- 研修や委員会の準備
- 保護者との連絡・相談
- 記録や書類の確認
- 年間計画の作成
- 行政への届出や報告に関する業務
これは一般的な整理例であり、実際の職務範囲は事業所の体制や法令上の役割によって異なります。
一覧にしたうえで、「今すぐ任せられること」「一緒に進められること」「現時点では管理者が担当すること」を分けていきます。
権限移譲は、すべての仕事を一度に移す必要はありません。
3.最初から一人で任せず、一緒に進める
私は、仕事を任せるときには、進め方を示し、途中で助言することも大切だと考えています。
例えば、職員に委員会の進行を任せる場合を考えてみましょう。
最初から一人で進行を担当してもらうのではなく、管理者と一緒に準備し、進行の一部を担当するところから始める方法があります。
その際には、会議の目的、当日確認する内容、決定が必要な事項などを共有します。
終了後には、うまくできたことや、次に改善できそうなことを振り返ります。
こうして少しずつ経験を積み、本人が対応できる仕事の範囲を広げていきます。
これは、仕事を任せることと、職員を育てることを同時に考える方法です。
なお、この委員会の進行例は、段階的な育成方法を説明するための例であり、THE SHIPの全事業所で同じ手順を導入済みという意味ではありません。
4.「どこまで自分で判断してよいか」を共有する
仕事を任された職員が迷いやすいのは、作業の方法だけではありません。
「これは自分で決めてよいのだろうか」
「管理者へ相談した方がよいのだろうか」
という判断の境界が分からないこともあります。
そこで、仕事を任せるときには、次のことを共有しておきたいと考えます。
目的
何のために、その仕事をするのか。
任せる範囲
どこまでを担当し、どこから管理者が判断するのか。
判断する際の基準
何を優先して考えればよいのか。
相談する条件
どのような場合に、誰へ相談するのか。
振り返る機会
いつ、どのように進捗や結果を確認するのか。
例えば、活動の準備や日常の業務調整は職員が担当できても、人員配置の基準、重大な事故への対応、行政への報告などについては、法令や法人内の責任分担を踏まえて判断する必要があります。
権限を任せることは、必要な確認や責任までなくすことではありません。
5.管理者は、判断の結果だけでなく理由を伝える
職員が自分で考えられるようになるためには、管理者が何を根拠に判断しているのかを共有することも大切です。
例えば、ある職員が提案した活動について、管理者が変更を求めたとします。
そのときに「この内容ではだめです」と伝えるだけでは、職員は何を改善すればよいか分からないかもしれません。
「この子たちの今の状態を考えると、活動時間を短くした方が参加しやすいかもしれません」
「こちらの活動なら、今考えている支援目標につながりそうです」
というように、判断の理由まで伝えられると、次の計画を立てる際の参考になります。
もちろん、これは説明のための一般的な例です。
大切なのは、管理者が正解を伝えるだけで終わらず、職員がその判断の過程を理解できるようにすることです。
6.安心して相談できる組織をつくる
私は、良いリーダーとは、単に仕事を指示できる人ではないと考えています。
職員を責めるような言い方をしないこと。
感情だけで判断しないこと。
相手の状況を踏まえ、必要に応じて仕事を調整すること。
そして、職員が自分の考えを安心して伝えられる雰囲気をつくること。
こうしたことを大切にしたいと思っています。
職員が判断に迷ったときに、相談することをためらう組織では、仕事を任せること自体が負担になるかもしれません。
一方、相談したときに考えを受け止めてもらい、一緒に改善方法を検討できるなら、次は自分で考えてみようと思える可能性があります。
任せた後も相談できることは、権限移譲と矛盾しません。
むしろ、段階的な育成を進めるうえで欠かせない視点だと考えています。
7.権限移譲が進んでいるかを、どう確認するか
仕事を任せた後には、その仕事が実際に進められているかを確認する必要があります。
例えば、次のような視点が考えられます。
- 任せた仕事の目的を理解できているか
- 必要な準備や実施を進められているか
- 判断に迷ったときに適切に相談できているか
- 管理者からの助言を次の行動に生かせているか
- 管理者が毎回細かく指示しなくても進められる範囲が広がっているか
ただし、相談が減ったことだけを成長の指標にしないことも重要です。
必要な場面で相談できることは、職員の大切な能力の一つだからです。
仕事の結果だけでなく、判断の過程と、適切に相談できたかを含めて確認していきたいところです。
まとめ|任せることは、育てることでもある
管理者がすべてを判断し続ける組織から、職員がそれぞれ考えて動ける組織へ。
そのためには、仕事を渡すだけでは十分ではありません。
仕事の目的を共有すること。
任せる範囲を明確にすること。
最初は一緒に進めること。
判断の理由を伝えること。
そして、任せた後も必要な場面で支えること。
仕事を任せるとは、管理者の負担を減らすためだけではなく、職員が成長し、チームとしてよりよい支援を続けられるようにすることでもあります。
私たちも、子どもへの支援を大切にしながら、職員が学び合い、主体的に考えられる組織づくりを目指していきたいと考えています。
事業所の運営・職員育成について
株式会社THE SHIPでは、児童発達支援・放課後等デイサービスの運営経験を踏まえ、事業所の運営や職員育成に関する課題を整理する支援について、ご相談を受け付けています。
委員会、職員研修、支援記録、管理者育成など、事業所ごとの状況に応じて検討します。
初回相談の受付状況はお問い合わせください。継続支援は、契約書・業務範囲等を準備中です。最新の受付状況や提供条件については、公式案内をご確認ください。
この記事について
本記事は、株式会社THE SHIP代表・土屋勇太が過去に語ったリーダー観や管理者育成の方針を基に、実務上の考え方として編集したものです。
記載した権限移譲の手順や例は、現場で検討するための提案を含みます。すべての方法がTHE SHIPの各事業所で実施済み、あるいは効果検証済みであることを示すものではありません。
